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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)3547号 判決 1988年10月06日

原告

大草豊久

被告

奥本強

主文

一  被告は、原告に対し、金二四〇万五九二一円及び内金二一八万五九二一円に対する昭和六一年九月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金八五八万六二四一円及び内金七八〇万六二四一円に対する昭和六一年九月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六一年九月二三日午前五時五〇分頃

(二) 場所 大阪府四條畷市大字中野一一三番地の二先府道枚方富田林泉佐野線交差点路上

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(大阪五九み六三四〇号)

(四) 被害車 原告運転の普通乗用自動車(大阪五三ま五七四八号)

(五) 態様 被害車が南から北へ進行して右交差点に進入しようとしたところ、対向車線を北から南へ進行してきた加害車が右交差点を右折しようとしたため、被害車の前部右側に加害車の前部右側が衝突した。

2  責任原因

被告は、次のとおりの理由により、本件事故による原告の損害を賠償すべき義務を負う。

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

(二) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告は、加害車を運転中、前記交差点を右折するに当たり、交差点の中央まで徐行して進行し、対向の北行車両のないことを確認してから右折すべき注意義務があるのに、これを怠り、専ら右折する西行道路方向にのみ注意して対向の北行車両に対する注視をせず、時速約四〇キロメートルで右交差点を斜めに最短距離で右折しようとした過失により、被害車に全く気付かず本件事故を発生させた。

3  損害

本件事故により、原告は次のとおり受傷して治療を受けた末後遺障害が残り、また被害車が破損したため、以下に述べるとおりの損害を被つた。

(一) 原告の受傷等

(1) 受傷

右足根骨骨折等

(2) 治療経過

<1> 昭和六一年九月二三日から同年一一月三日まで田原病院に入院(四二日間)

<2> 昭和六一年一一月四日から昭和六二年一月三〇日まで右病院に通院(実通院日数二八日)

<3> 昭和六二年四月一一日から同年七月一一日まで竹野外科胃腸科に通院(実通院日数二三日)

<4> 昭和六二年九月五日田原病院に通院

(3) 後遺障害

<1> 右足関節部の不安定感、運動時の雑音、右足関節外果部の疼痛・圧痛等

<2> 昭和六二年九月五日右症状固定

<3> 自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表一二級七号該当

(二) 治療関係費

(1) 治療費 一〇九万八三二三円

<1> 田原病院分 一〇八万四六九三円

<2> 竹野外科胃腸科分 一万三六三〇円

(2) 入院雑費 四万二〇〇〇円

入院中一日一〇〇〇円の割合による四二日分

(三) 逸失利益

(1) 休業損害 一〇一万〇四三五円

原告は、本件事故当時大草運輸に運転手として勤務し、株式会社石田製麺に派遣されて麺類の定期配達業務に従事して、一か月平均二三万八六二五円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和六一年九月二三日から昭和六二年一月三〇日まで休業を余儀なくされ、その間一〇一万〇四三五円の収入を失つた。

(計算式)

238,625×(8÷30+3+30÷31)≒1,010,435

(2) 後遺障害による逸失利益 一七四万九四八三円

原告は、前記後遺障害のため、その症状固定時から少なくとも五年間、その労働能力を一四%喪失したものであるから、原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一七四万九四八三となる。

(計算式)

238,625×12×0.14×4.364=1,749,483

(四) 慰藉料

(1) 入通院分 一五〇万円

(2) 後遺障害分 二四〇万円

(五) 物損 一二〇万六〇〇〇円

本件事故により、原告所有の被害車が修理不能となるまで大破した。

(1) 車両損害 一一五万円

(2) レツカー代 五万六〇〇〇円

(六) 弁護士費用 七八万円

(七) 損害額合計 九七八万六二四一円

4  損害の填補

原告は、本件事故による損害につき、自賠責保険金として一二〇万円の支払を受けた。

5  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は本件事故発生の日の翌日である昭和六一年九月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。但し、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2の(一)は認める。(二)の内、右折進行についての注意義務の点は認めるが、その余は争う。

3  同3の(一)ないし(七)は不知。但し、(五)の(1)の車両損害については、被害車は修理可能であり修理費が損害になるか、あるいは全損の場合にはその時価から減価償却されるべきである。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故の発生については、原告においても、制限時速が三〇キロメートルであるのに時速四〇キロメートル以上で走行し、対向の加害車の先行車に気を奪われて加害車の発見が遅れた上、ブレーキとアクセルとを踏み間違つたため、加害車に強く衝突してそのまま暴走し、ガードレールに激突した過失があるから、原告の損害賠償額の算定にあたつては過失相殺により減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  運行供用者責任

請求原因2の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、被告は自賠法三条により、本件事故による原告の受傷によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  一般不法行為責任

成立に争いのない乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし八、第七、第八号証の各一ないし三、第九ないし第一二号証、第一六号証、第一七号証、大草勇が昭和六一年九月二三日撮影した被害車の写真であることにつき当事者間に争いがない検甲第一ないし第七号証並びに原告及び被告の各本人尋問の結果(後記の採用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実が認められ、原告及び被告の各本人尋問の結果中の右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用しえず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  本件事故は、片側一車線の南北道路と東西道路とが交差する通称「中野北交差点」の中で発生したものであるが、同交差点は信号機によつて交通が整理されており、最高速度は時速三〇キロメートルに規制されていること。

(二)  被告は、加害車を運転して右南北道路を時速約四〇キロメートルで南進し、青信号に従つて右交差点を右折しようとして、その手前で右折の方向指示器を出すとともに時速約二〇キロメートルに減速したが、先行車に気を取られて対向車線上を進行してくる車両の有無等の確認をしないまま、同交差点の中心点の直近より手前で対向車線の方に約〇・七メートル入つたところ、対向車線を走行してきた被害車の右前部に加害車の右前部を衝突させ、その時初めて被害車に気付いたものであり、加害車は衝突後約九・四メートル後方の道路上に押し戻されたこと

(三)  原告は、被害車を運転して前記南北道路を時速約四〇キロメートルで北進し、前記交差点の手前約八〇メートルの地点で青信号を確認するとともに、右前方約一五〇メートルの地点の対向車線上を先行車から約一〇メートルの車間距離をとつて南進してくる加害車を発見し、更に右交差点のすぐ手前で右先行車が右折していくのを認めたが、その後方の加害車の動向に十分注意しないまま同速度で右交差点を直進しようとして同交差点内に入つたところ、右前方約一四・七メートルの地点に対向車線から右折しようとしている加害車に気付き危険を感じたが、ブレーキをかける余裕もなく約九・九メートル直進して加害車と衝突し、その際の衝撃でアクセルペダルを強く踏み込んで被害車を加速させてしまい、右交差点北西角のガードレールにぶつけてその反動で被害車を転回させ、右衝突地点から約二〇メートル右前方の道路上に被害車を停止させるに至つたこと

右認定の事実によれば、被告には、前記交差点を右折するにあたり、対向車線を走行してくる車両の有無等の交通の安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、自己の先行車に気を取られて被害車が対向して走行してくるのを見落とした過失により、本件事故を発生させたことが認められるから、被告は、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1  原告の受傷等

成立に争いがない甲第一号証、第一三号証、並びに原告本人尋問の結果により真正な成立が認められる甲第一一号証によれば、請求原因3の(一)の(1)、(2)及び(3)の<1>、<2>の事実が認められる。

ところで、原告は、原告に残つた症状が自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表一二級七号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当すると主張するので、これにつき判断するに、右等級表の後遺障害を認定するに際しては、これとほぼ同内容の労働災害身体障害等級表の認定基準である労働災害「障害等級認定基準」に準拠して判断するのが相当であり、右認定基準によれば、下肢の「関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の運動可動領域が健側の運動可動域の四分の三以下に制限されているものをいうとされているところ、前掲甲第一三号証、成立に争いのない乙第一八号証の一、二によれば、原告の足関節の背屈は他動、自動とも運動制限のある右足が一五度、健側の左足が二〇度、底屈は他動、自動とも右足が四〇度、左足が五〇度であり、自賠責保険の調査事務所における後遺障害の事前認定では、背屈と底屈を合わせた運動可動域が右足で五五度、左足で七〇度で、右足の運動可動域が左足のそれの四分の三以下に制限されていないため、非該当と判断していることが認められ、これによれば、原告の右足関節の運動制限は前記等級表の一二級七号に該当しないというべきである。

従つて、原告の後遺障害による逸失利益の主張には理由がないが、原告に残つた症状については、慰藉料額の算定の際に考慮すべき一事由になると考えられる。

2  治療関係費

(一)  治療費(文書料を含む。) 一〇九万八三二三円

成立に争いのない甲第二号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正な成立が認められる甲第三号証の一ないし一七、第一五号証、第一六号証の一、二によれば、請求原因3の(二)の(1)の<1>及び<2>の事実が認められる。

(二)  入院雑費 四万二〇〇〇円

原告が四二日間入院したことは、前記認定のとおりであり、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による合計四万二〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

3  休業損害 九九万〇七〇八円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる甲第四号証の一ないし八、第五号証の一ないし七、第一〇号証によれば、原告は本件事故当時一八歳で、大草運輸に自動車運転手として勤務し、株式会社石田製麺のうどんをスーパーや料理店に配達する業務に従事し、事故前の七か月間の平均で月額二二万八六二五円(通勤手当を除く。)の収入を得ていたが、本件事故により、昭和六一年九月二三日から昭和六二年一月三〇日までの一三〇日間休業を余儀なくされ、その間九九万〇七〇八円の収入を失つたことが認められる。

(計算式)

228,625÷30×130=990,708(一円未満切捨て)

4  慰藉料 一五〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療経過、原告に残つた症状の内容、程度、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は一五〇万円とするのが相当である。

5  物損 一二〇万六〇〇〇円

前掲検甲第一ないし第七号証、成立に争いのない甲第六号証、原告本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる甲第七号証、第八、第九号証の各一、二によれば、本件事故により原告所有の被害車は大破して修理不能の状態になつたこと、事故当時の被害車の時価は一一五万円であること、被害車のレツカー代として五万六〇〇〇円を要したことが認められるところ、全損の場合の被害車両の財産的評価は中古車市場における取引価格をもつて行うのが相当であるから、本件事故による物損は、右認定の被害車の時価及びレツカー代の合計一二〇万六〇〇〇円である。

6  損害額合計 四八三万七〇三一円

四  過失相殺

前記二の2で認定した事実によれば、本件事故の発生については原告においても、前記交差点を直進するに際し、対向して進行してくる加害車にあらかじめ気付いており、加害車がその先行車に続いて右折することも十分予測できたのに、その動向に注意を払うことなく、漫然と制限時速を約一〇キロメートル超過する時速約四〇キロメートルで直進し、更に右折しようとしている加害車を認めた後、ハンドルを左に切つたり、間にあわないとしてもブレーキをかけたりするなどの衝突を回避する措置を取らず、衝突の際の衝撃により反対にアクセルペダルを踏み込んで被害車を逸走させて損害の拡大を招いた過失が認められるところ、前記認定の被告の過失の態様、即ち右折するに際して対向車両の有無等の交通の安全の確認を怠つた上、交差点を早回りで被害車の前方直近を右折しようとした過失等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の前記損害額からその三割を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、原告の損害額は、三三八万五九二一円となる。

五  損害の填補

請求原因4の事実は、原告の自認するところである。

よつて、原告の前記損害額から右填補額一二〇万円を差引くと、残損害額は二一八万五九二一円となる。

六  弁護士費用

本件事故の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、二二万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて、被告は、原告に対し、二四〇万五九二一円及び内弁護士費用を除く二一八万五九二一円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和六一年九月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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